がんで退職を考える人たちへ。会社を辞める前に知るべき4つのリスク

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働きざかりのがん患者が33万人(2016年推計)の時代になり「がんと就労」というテーマは社会課題の一つと言われています。

今回は、“がん”を契機に退職を考えられている患者さん向けに知っておいていただきたいことについてまとめてみました。次のような順番でそれぞれ書いていこうと思います。

【本コラムの構成】

❏ がん発症を契機に会社を辞める人(4タイプ)
❏ 退職を決意する前に知っておくべきリスク(4つ)
❏ 職場・会社でがんを内緒にする場合のデメリット
❏ 再就職と収入について
❏ まとめ

【がん発症を契機に会社を辞める人(4タイプ)】

 これまで多くのがん患者さんとかかわってきましたが、会社を辞めた人たち、もしくは退職を考える方のほとんどが次の4タイプに大別されます。

❏ もともと辞める人

 がんに罹患する以前から職場や仕事内容に不満があり退職を検討していた人が“がん”になると、それを契機に退職することがあります。
 なかでもご自身で「がんになった理由は会社のストレスだ」と心を整理されている場合は、その患者さんに慎重に考えた方がいいですよと助言してもなかなか難しいと思います。
 また定年間近で今の仕事に生きがいを感じていなかったり、早期退職制度への応募を検討していた人ががんになると、発病を契機に退職するケースもあります。
 こういう方々は広義の「もともと辞めても不思議ではない人たち」なのでたまたまがんが退職のきっかけとなるようです。

❏ 過度に会社の人の目を気にする人

 がんの診断がおりるとがんのことを隠しておきたいと思う人が過半数ではないでしょうか。必要に応じて上司とか人事部とか一部の社員には伝え、職場の他の人たちには内緒にしてほしいとする患者さんは結構いらっしゃいます。
 一方で“がん”のことを会社の人には誰にも明かしたくない、通院・入院を旅行にいくとか方便を使って隠し続けたいとする方もいます。
 しかし隠し続けることが難しくなって退職を決意したり、隠すことがつらくなってやめてしまうケースがあります。
また、上司にがん発症の事実を明かしたが「会社に迷惑をかけたくない」として辞めてしまう人もいます。
このような患者さんたちは広い意味で「過度に会社の人たちの目を気にする人たち」と感じておりそれが退職につながっています。

❏ 先入観(思い込み)のある人

 これまでの家族・親戚のがん経験や限られた情報を基に良くない先入観(思い込み)があり退職を決める人たちです。
 例えば「治療に専念するためには仕事は続けられない」とか、「治療と仕事の両立なんかできない」とか、「退職しても治療が終わればまた別の仕事にすぐ就けるはずだ」とか、さまざまな先入観です。
 時には患者さんご本人はそこまで思っていなくても家族に強い思い込みがあり本人をなだめるようにして会社を辞めさせることもあります。
 退職リスクをよく解っていない患者さんが後々 後悔することが無きようにと願い、今回のコラムで少しでも参考になる情報を発信したいと思いました。

❏ 条件が合わない

 会社にがんのことを打ち明け、仕事を続ける意思があるにもかかわらず療養休暇や時短勤務等の人事制度がなく(或いは既存の制度に自由度がない)ため、患者本人が希望する就労形態や雇用形態が認められずやむなく退職する人がいます。
 これを自主的な退職の範疇(はんちゅう)に入れてよいかどうか解りませんが、条件があわず退職するケースです。
 治療が長引くにつれ、2~3ヵ月ごとに1週間入院する治療に替わったり、別の抗がん剤に替えたら具合が悪くなったり、合併症の発症、再発など、治療方法と患者さんの体調の変化に企業の人事制度が対応できない場合(或いは制度がないので対応しないという場合)、こういった残念な退職につながると感じます。

もちろん現実はもっと複雑で多岐に及び、以上の4タイプにだけ分類される訳ではないと理解していますが、私の経験では多くの方が上記4ケースのどれかで退職している、もしくは退職を検討されています。


【退職を考えるうえでの4つのリスク】

相談に来られる患者さんやそのご家族の方に私がお伝えする「事前に知っておくべき退職リスク」は以下の4つです。

❏ よくないことばかり考えがち

 「治療に専念するため」に会社を辞めた人で入院していない場合、たいてい自宅にいます。そうなると相談できる医師が近くにいないのと暇な時間がたくさんあるため「よくないこと」ばかり考えがちになります。
 ちょっとした日常の変化(例えば、腰が痛い、肩がこる、何となく熱っぽい)だけでも「がんが進行しているんじゃないか?」とか、「転移したんじゃないのか?」などと良くない想像ばかりして精神的に疲れてしまうのです。
 私はがんを発症したあとも会社を辞めませんでしたが、自宅療養中とリハビリ中はじっくり考える時間があったので、どうしてもよくないことを考えがちで苦労しました。
 私の友人で肺がんの患者さんは会社に休職扱いにしてもらっていたのですが、「一日中、家で死が近づいているとか、怖いことばかり考えていてつらくて仕方がないので出社させてください」と会社にお願いし、その後は時短勤務で治療されるようになりました。仕事をすることで暇な時間が減り、怖いことを想像することがめっきり減って精神的に安定したそうです。
 退職していたらこのようなことはできないですし、仕事をしていたほうが気がまぎれるからいいと思っても新たな仕事を探すところから始めるのは大変だと思います。

❏ 孤独

 がんを患うと自分を孤独に感じる患者さんは多いです。これは家族やお医者さんたちがどんなに心に寄り添ってくれても「病気と闘っているのは自分だから」という孤独感があるからです。
 そんな時に仕事もなく、どこの組織にも属していない状態だと自分が社会から切り離されたような別の孤独を感じてしまいがちです。これはとても辛いことです。
 私は長期の入院中にその孤独を感じました。
 仕事がある時は社会の中で役割を与えられていますが、それを急に失うのは想像以上につらい気持ちになるものです。

❏ 家族との喧嘩(けんか)

 前述のように良くないことを考えがちで、しかも患者特有の孤独感を感じて家にいるとちょっとしたことで家族と喧嘩になります。
 そんな喧嘩が毎日続くと本人も家族も精神的に疲れてしまいます。
 ただでさえそれまで外で働いていて家にいなかった人が家にいることで家族の生活ペースが変わってしまうのに、がんの治療中となると家族の心が休まるときがなくなるのかもしれません。本人と家族がストレスを抱えて家にいることで家族の関係が悪くなることもあります。

❏ お金

 「仕事よりも命の方が大切だから」と言われて退職された人がいました。
 それはもっともだと思いますが、入院中を除いては絶対安静ということは比較的少ないです。私は「いますぐに辞めなくてもいいのでは」と感じました。
 治療が長引けば医療費がかさみます。しかしそれ以上に厳しいのは収入が無い期間が長引くとその経済的影響がとても大きくなります。

 患者さんの病状と体調はさまざまで、同じ人でも治療が替わると体調が変わります。
 抗がん剤治療と言っても入院して点滴で行うものもあれば、自宅で経口薬を服用する場合もありさまざまです。治療を受けていても今まで通り働く、もしくは調整しながら働くことができるケースもあるのです。
 だから治療が始まるからと言って安易に退職を決めるのではなく、逆に(例えば、休職扱いとか在宅勤務とか)退職しなくても治療生活を続けられる方法があるかどうか会社と話してみることから始めてはいかがかと思っています。


続いてよく話題にあがる「会社にがんのことを伝えるか、内緒にするか」です。
このテーマに関しては、患者さんの状況が多岐にわたるので、これが唯一の正しいやり方というものはないように感じています。ですので、ここでは、内緒にした際のデメリットについてまとめました。

【職場・会社で内緒にする場合のデメリット】

❏ 社内

 前述の通り、がんであることを会社の誰にも知られたくないとして内緒にする人は、大いに悩まれた末そうしている訳ですから尊重されるべきです。そうせざるを得ない理由があるのだと思います。
 一方で完全に内緒にしてしまうと社内の人は「(彼・彼女が)がんを患っている」という重い事実を知らないので、会社からのサポートを得られなくなります。治療のため早退するとか、遅れて出社したいとき、会社の人が状況を知らないと、なぜ早退・遅刻したいのか理解してもらえず関係がギクシャクしかねないです。当然、周囲の配慮はなく心身ともにつらい状況になり得ます。
そして何より内緒にしていることがつらくなる人もいます。

❏ 転職面接

 再就職面接のときに自分ががんの治療を受けていること、或いはがんを理由に前職を辞めたことを言うべきかどうか悩まれる人がいます。
 また、厚生労働省研究班によるアンケート(*1)によると56%の人が再就職先の雇用主が本人のがん治療歴を知っていて、36%は知らないと答えています(残りは無回答)。
 事前に伝えるかどうかはなかなか難しい問題で、会社と患者さんの組み合わせもさまざまと思うので一概にはどちらが望ましいとは言えないはずです。
 ただ、現在も治療中の人とか定期的に通院している人の場合、再就職先の会社が何も知らないと前述の通り早退・遅刻の時、上司や同僚が理解できず会社からのサポートが得難くなります。そのことはリスクとして知っておくべきです。


【再就職と収入について】

 がんを契機に退職した人の半数近くは収入が減ったとあります(*1)(ただし、無職の人も計算に含まれている可能性はあります)。つまり経済的に厳しい状況になり得ることを示唆するものです。
 ただこの数字だけを見てがん患者は不利な処遇を受けていると結論付けるのは短絡的と感じます。なぜなら大抵のサラリーマンは50代、60代で退職すると再就職は難しいですし、収入は減ります。40代でも苦労するはずです。
 特別なスキルのある人がヘッドハンティングされて良い条件を提示されるのであれば別でしょうが、中高年が別の職種に再就職となれば大抵給料は下がります。
 せっかく無事手術が終わり再び働くというときに、雇用の機会が少なく、条件・処遇がこんなにも低いのか、それならやめなければよかったと後悔しないように事前にリスクをわかったうえで検討して頂きたいのです。

がんになって退職する患者さんの4割は治療が開始される前に退職

 がんになって退職する患者さんの約4割の人が治療を開始する前に退職したという報道があります(*2)。その4割の方がどういう理由でそんなに早く退職されたのかは解りませんが、すべての人が前述4タイプの「もともと辞める人」「条件が合わない」ではないと思っており、辞めたあとに後悔されている人もいるはずです。
 私の知人で大腸がんの患者さんは再発も経験されたのですが「がんと言われたとき会社を辞めようかと悩んだけれど会社を辞めなくてよかった。病気になったことで仕事があることのありがたみがわかったし、再就職活動なんて大変だと思う」と言われました。


【まとめ】

 これまで、会社を退職したあとに後悔しているがん患者さんに大勢会ってきました。
 今後、そういった人が少しでも減ってもらえたらと思いこのテーマで書きました。
今すぐ退職せざるを得ない特別な理由がない限り、とりあえず会社を辞めるのではなく、辞めずに治療することができる方法について確認・相談することから始めて頂けたらと思います。
 退職することはいつでもできるはずです。
 治療は大変ですし、会社にがんを伝えることは勇気がいると思います。色んな不安もあるかと思いますが、ご自分と家族のことを長い目で考えて頂き慎重に決めて頂ければと思っています。

 (※)次は自営業の方の「がんと就労」のテーマ、会社の人事部のかた向けのテーマで書きたいと思います。

(*1):http://cancer-work.ncc.go.jp/image/houkokusyo/investigation_report2012.pdf
(*2):https://yomidr.yomiuri.co.jp/article/20160602-OYTET50016/

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